こんな景色もいいもんだよ。

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夜勤のバイトの始まりの夕方、
車椅子に座りエレベーターホールで外を眺めている方がいました。

いつもだと夕食前で忙しいので、
その時間はなかなか立ち止まれないのだけど。。

その日は大粒の雨降りで、
空はどんよりしていました。
“かなり降っていますねぇ”とふと声を掛けた。
隣に立って話しかけた私には階下の家や景色が見えていたけど。。

目線を一緒にとしゃがんでみると、
車椅子の高さからは曇った空と奥の方の山しか見えていませんでした。

そうか、この高さだと景色は見えなくなっちゃうんだ。
そんなことに気付きながら、
“お天気なら気持ちいいのにね”
そう言った私に、その方からはこんな言葉が返ってきました。

「こんな景色もいいもんだよ。」

「桜が終わっただろ、山がピンクじゃなくなってる。」
「次は黄色がでてくるよ。もうあの辺うっすら見えるだろ。」

確かに４月の初旬には、
その山肌はピンクに染まる見どころのひとつ。

そして、今からの時期はみかんだと。
（夏ミカンとかはっさくとかね、静岡は産地でもあります。）

「霞がでるのも、春だしな。」
どんよりと霞んだ空の向うの山に、
実はまだ黄色は見えていなかったけど。
地元で育ち、年を重ねた方からすれば、
見慣れた景色は昔とは変わっていっても。
季節を感じる景色ってあるのでしょうね。

「もう90いくつになっちゃうよ。
来月にはまた誕生日がくる。めでたくもないけど。」

そんな会話を続けながら。。

“こんな景色もいいもんだよ”

その言葉からまた学んでいく私達がいる。

自然が織り成す景色には、いいも悪いもないものね。

年を重ねてから見える景色には、
そういった趣きも目に映っているのかもしれない。

自然がもたらす風景からの恩恵と。
この大地に住まわせて頂いている私達も感謝の心とも、
いのちの営みが繋がっていると。